はろー、異世界学! 第四話「入学④」

「行き渡ったかー?んじゃ、オリエンテーション始めるぞ」

教壇に向かいながら、マイクを襟につけ、話し始める。

「俺は今年から異世界学を担当することになった、白鷺だ。とりあえずよろしく。……んで、細かいとこはプリントを見てもらえばわかる通り、この授業はゼミ形式なんだわ」

一斉にプリントがこすれる音がする。少しのざわつきを気にすることなく、先生は喋り続ける。

「で、書いてある通り、こんなに……えぇ~と、この教室が二百人定員だから、百八十人くらいいるのか? というわけで、こっから五人に絞らないといけない」

先生は席を見回しながら、反応を見極めるようにじっくりと観察している。ざわつきが大きくなる中、数秒だったが間を空けていた。

「つまりだ、今から小論文を書かせる。よし、百九十人いそうって言ったな……、じゃあ百九十文字にしよう。この文字数以内で、小論文を書いてくれ。……用紙を今から配るぞ」

そして、また先生は教壇からおり、白紙を渡していく。

「小論文だって、どうするぅ?」

心配そうに真琴がヒソヒソと話しかけてくる。見れば、後ろの方の席にいた人たちはみんな出口へと向かって行っている。
おそらく取れないことを確信したのだろう。 テーマにもよるが、小論文で勝負するとなると、少しの不安がある。もちろん、ただの学力テストであれば、もっと不可能に近いだろう。 しかしそう考えれば、小論文は「もしかしたら」の可能性がある。限りなくゼロに近い確率だったとしても、あの先生の目を私の小論文でストップさせればいいのだ。
それが偶然だろうと、関係ない。 そして、ここで諦めるのはなんか悔しい。

「大丈夫だよ。実力テストよりはチャンスがあるわ」
「お、おぉ……なんか燃えてるねぇ」
「ここで諦めたくはないからよ」

配られた白紙に名前と学籍番号を書き、お題を待つ。 ようやく配り終え、うしろまで届いたのを確認してから、また先生は口を開いた。

「おぉ、めっちゃ減ったな。へっ、所詮その程度か……。
問いは『あなたなりに異世界を定義してください』だ。百九十文字、三十分。……始め」 は? 定義?? 異世界を定義する? それって、この授業の最終目標じゃ……。それをいま考えて、書けと? 周りを見渡すことはできないが、ヒソヒソと「定義ってどうするの」や「俺、書けねぇよ……」という声が聞こえてくる。

「あ、そうだ。友達と相談してもいいし、ヤホー知恵包で質問を投稿してもいいからな。ま、そんな簡単に通さないけど」
「ね、ねぇ、結菜。私たちは相談せずに書くよねぇ?」
「もちろんよ。今までだってそうだったじゃん」
「ふふっ、うちは負けへんからねぇ」
「私だって!」

意識を身体の中枢に持っていく。なんとなく頭が冴えているような、そんな気分を感じようとする。 周りの音を情報源からカットする。自分だけの世界を構築。 『魔法、言語、人種、生態、様式、ニュース、実在、想像、交流、リクシオン、ジル、ハイタミ、関係性、……』 キーワードを羅列、展開。関連付け。構成にキーマップ挿入。そして肉付け。 百九十字にはまだ満たない。
ダメだ。なにかが足りない……。 論理的な文章で書いた。今まで通りの方法で書いた。 しかし、それでは何かがダメだと訴えかけている。 なにがダメなのか。私が忘れていることはなんなのか。 『あなたなりに……定義』 『想像の学問』 『異世界』 うん? これは『あなたなりに定義』と『異世界』で構成されたテーマなのか?
いや、一般的に捉えればそうかもしれない。 しかし、先生は一般論を求めるのだろうか? 『想像の学問』は『創造の学問』なのではないだろうか。 つまり、私は『私なりに定義』をするのではなく、『私なりに考えた異世界』を『定義する』のではないか? この小論文が求めていること、そしてあの先生が求めているのは、『自分で創造した異世界』をテーマにした文章ではないか? そうだ。
おそらく、そうだ。 また、私はキーワードを羅列していく。
しかし今度は固定概念を客観視したワードを上げていく。 『固定概念、妄想、勝手、小説、噂、先入観、神聖、不可侵、異世界、関係性、存在、……』 そしてキーマップを作成し、構成。最初に書いた文章に大きくバツを描き、その下に新しい文章を書きこむ。 構成されたまとまりのある文が、つらつらと紙に印字されていく。
シャープペンシルをノックし、わずかに飛び散る粉が文章にふりかかる。しかし大した量ではない。 すぐに払い、ドンドンと書き進めていく。 筆は止まらない。自分の描いたストーリーがそのまま転写されていく。
そして百九字ピッタリで筆は机に置かれる。 機械のように正確なカウントが、自動で私の動きを制御した。 隣の真琴はまだ書いているようだったが、それでもあと二十文字程度で終わりだ。 あまり横を見ていては真琴にカンニングと思われてしまうかもしれない。チラッと見て、あとは自分の文字を一つ一つ見直していく。 汚くはないが、流して書くと雑になる傾向がある。 気になるところは消し、また書き直す。 そうして、残りの時間を潰した。

「はい、終了。後ろから回収してくれ。選考結果は明後日の夕方までに学内サイトの掲示板から通達するからチェックしとけよー。……はぁーあ、やっと終わった。やっぱ疲れるなぁ~」

先生の性格は大体把握した。 おそらく極度のめんどくさがり屋だ。

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