『転生したらダンジョンにされていた。――小説家になろう』おすすめweb小説紹介サイトラノプロ
《作品タイトル》
転生したらダンジョンにされていた。
《作品情報》
作者“JANE”
あらすじ
いきなりチュートリアルって、何言ってんの?親切なのか、意地悪なのか分からない謎の声に導かれて、そのまま始まるダンジョンライフ……って、俺がダンジョンなのかよ!?何故か犬になったり、時には自分より強い部下にビビったり……。どこか変な転生ライフを送る、ドジで小心者の主人公の話です。
ジャンル
キーワード
R15 残酷な描写あり 異世界転生 冒険 人外転生 チート ダンジョン スキル 成長 犬 コボルト HJ大賞2018
掲載日
2018年 05月09日 22時01分
《第一話特別掲載》
俺は今、追われている。
何に? 仕事だよ!
とてつもない量の仕事だ!
はっきり言って、終わりが見えない。
なんで俺が、こんなことしなきゃならんのだ! これも全部、素晴らしい諸先輩方のおかげといったところか! ありがとうございます!
そもそも俺は、こんなことしたくて公務員になったわけじゃない。人並みの生活をして、人並みの幸せを手に入れるために耐震性抜群の安定感を誇る――といわれるが、実際は抑揚の少ないだけの――公務員になったのだ。
どの公務員かって? 秘密だ。俺にもプライバシーがある。
しかし、現実はというと……。
俺は34歳になった現在、未だ独身、彼女なし。
あっ、どど童貞ちゃうわ! マジで! 本当に!
だから、俺には魔法使いの資格は無い。……多分。
そもそも、この職場は出会いが無い。女性の職員が男性の数に比べて圧倒的に少ないのだ。別にオフィスラブとかいう空想に期待しているわけじゃないが、希望ぐらい持たせてくれてもいいのに……。
いや、俺も積極的に行動したこともあったよ? しかし足りないのだ。経験が、圧倒的に……。
結果、撃沈に次ぐ撃沈。彼我戦力差に絶望するのみである。
まあ、ちゃんと家庭を持ってる人は持ってるんだけどね。つまり、自業自得ということですよ、チクショー。
そんなことよりも、今の状況だ!
俺の前には大量の書類が積み重なっている。机の大半が埋まっている。ギリギリ作業できるスペースを残して、書類を置けるだけ置いている。邪魔になるが、そうも言ってられん。必要なのだ。
そもそも、こんな事態になったのは先日の法改正――ニュースやワイドショーを賑わせていた某改正法の施行――の波を受け、書類の管理の見直しを行なうことになったからだ。
いざ、見直しを始めると出るわ出るわ。諸先輩方の杜撰な管理の痕跡が。それこそ俺が、この職に就くよりも遥か昔の悪しき遺産の数々が、ほじくればほじくるほど出てくる。
うん、マジでヤバいね。
当事者の中には定年退職している人もいれば、ギリギリ現役の人もいる。残ってる現役の人に聞いても何がヤバいか、全く理解してない。っていうか、関係無いと思ってやがる。
ふざけんな! 叫びたいけど、公務員の最強の障壁『年功序列』が存在する。これは攻撃にも防御にも使える万能結界なのだ。まるで◯Tフィールドだ。
この切羽詰まった状況でそんなの相手にしてられん。期限が明確でないにしろ、本来は適法に管理されているはずの書類が管理されていなかったのだ。
早急に是正せねば。
お偉いさんのチェックのタイミング次第では、部署の関係者漏れなく処罰される可能性もある。最悪、ぷよ◯よ大連鎖並みの惨事になりかねん。
俺のささやかな未来設計図のためにも多少の無理はしないと……。
……多少のつもりだったけど、気がついたら結構無理し続けていたな。
「あれ? 俺、何日家に帰ってなかったっけ?」
ふと思ったことを後輩に聞いてみた。
「いや、知りませんよ。先輩、帰って寝た方がよくないですか? 顔色大分悪いですよ……」
「うーん、飯だなんだはコンビニ近いし問題無いけど、まとまった時間寝てないのは流石にきっついな。よく考えれば、休憩時間も仕事してるし」
うん。体調が悪い。乾いた咳は出るし、関節痛い、頭痛い。常時気分悪い。
「まあ、今日は長めに仮眠取るわ。っていうか、もう定時になったぞ。お前もいい加減帰れよ。偉大なる諸先輩方は定時前に帰宅準備して、時間になったら即退散したぞ」
「そんなこと言われても、この仕事量はちょっと酷いですよ。先輩だけでどうにかできる量じゃないですって」
むう……。こいつ、いいやつなんだよな。20代半ばで結婚して、今じゃ一児の父、それなりに顔も良くて性格もいい、ときたもんだ。仕事も真面目なんで通常業務の一部は完全に任せている。こいつだって、負担は少ないはずがないのだ。
「いいって、お前は家族がいるだろ? こんなもん、独身の暇なやつに押し付けとけばいいんだって。俺は好きでやってんだよ。自己満足。できてる筈のものができてないのが気持ち悪いだけだ」
「……わかりました。先輩もちゃんと休んでくださいよ? 先輩が倒れたら通常業務の方も回らなくなるんですから……。それじゃあ、お先に失礼します」
「おう、お疲れさん。それと、リア充爆発しろ!」
俺は申し訳なさそうにしている後輩に、いつもどおりの軽口を交えて帰るように促した。まあ、俺は自己満足でやってるというのは本当だし、家族がいるやつは家族を大事にするのは当然だ。それも、こんなつまらん先人の後始末に後輩の家族を巻き込むのは俺の気分が悪い。
といっても、この後始末が終わる前に大事になったらあいつの明るい未来設計に陰りができてしまう。
諸先輩方に対しては、『ざまぁ~』の賛辞を贈らせてもらうが、後輩に関してはいたたまれなくなる。
俺みたいに人生低空飛行の人間は、落ちてもそこまでダメージがでかくないが、順風満帆な人間には致命傷もあり得るからな。
さて、あいつの家族のためにも頑張るかな。
とはいえ、体調が悪いのは間違いない。視界の色もわからなくなってきたし、いよいよヤバそうだ。頑張るのは、仮眠を取った後でもいいだろう。
そう思い、俺はいつも仮眠を取る時に使う休憩所のソファーに腰かけた。
ああ……。いかんな。これは思ったよりも疲れてる。
世界が回ってる……。
こめかみが信じられん速さで脈打ってる。
心臓の音がでかい……。
息がクルシイ……。
……俺は、どうやら知らないうちに横になっていたようだ。
視界が暗くなっていく……。
……
《感想》
文章能力普通。キャラの個性普通。全体的に一般web小説の領域を脱っしていないように見えるこの小説ですが、真に見るべき場所はその独創性にあるのです。
作中ではプロローグは読む必要がないと言っていますが、プロローグは主人公のキャラクター紹介の役割を物語に乗せてスムーズに表すことができていますのでできる限り読んでほうが良いでしょう。
先ほど独創性と言いましたが、おそらく書こうと思えば一部の人はキャラ資料レベルなら書けると思います。ですが、プロットを書くまでにあきらめるはずです。
たいていの人物は主人公がダンジョンになりながらも作品を面白く見せる方法を思いつかないからです。
見事にその難関を乗り越えている作品だと思いますので是非ご一読お願いしますm(__)m