鉢合わせ④

「……君のことだし、そもそもうちの大学は教員にお任せじゃと言ったやろ? 初回から異世界行かすも、終始講義に徹するも、君次第じゃ、ふぇっふぇっ」

「おいおい……そんな簡単な交渉とは聞いてねぇぜ……。俺としちゃ、まる3日はかかると思ってた」

「裏を返せば、3日もあれば説得できるということじゃろ? ここの教員なんて、みんなそんなもんじゃ」

「……それって、学長が論破されてるだけじゃ……?」

「い、いや! 断固、そんなことはないはずじゃ、が」

「はいはい、論破論破」

「ぬおぉぉい!」

交渉は難なく終わった。難なくというより、むしろ何もなかった。
若干は渋られると思ったが、すんなりといってしまった。
まぁ、でも通ればいいのだ。驚愕はしたが、最終的に通ったのだから言うことはあるまい。

学長室を後にした俺は、研究室へと向かった。

※----※----※----※----※

研究室への扉を開け、中へと入る。もちろん誰もいない。
電気をつけ、書類の積まれた机の横を通り過ぎる。そして、自分の机へと向かう。
机に荷物、といっても申請書の入ったショルダーバックだけだが、それを置き、コーヒーを注ぐ。
一口ごくりと飲み、ある所へ電話をかける。

「あぁ、久しぶりだな」

『お久しぶりでございます。リクシオンの殿下……いえ、こちらでは湊様でしたね』

「初回からリクシオンに向かうから、トビラを開けておいてくれ」

『いきなりですか……らしいですね。ははっ』

「おい、なんなんだ。気持ち悪いぞ」

『そんなストレートに言わんでください……。落ち込みますよ? それで、いつごろから』

「15時だ。授業開始とともに飛び込むから用意しとけ」

『接続先はリクシオンのコバミルト宮殿、入りは研究室で?』

「あぁ、配備も頼む。リクシオンはまだまだ戦闘が絶えないだろう? 宮殿とはいえ、増強を頼む」

『言われなくとも、……あなたはリクシオンの救世主なんですから』

「……生徒のためだ」

『……仰せのままに』

電話を切る。セキュリティの観点からいえば、伝書のほうが良かったのかもしれないが、これは一つの誘いでもある。
もし、これを犯罪集団が聞いていたとすれば、裏をかこうとしてくる。
しかし残念ながら、そんなことはお見通しだ。俺はそれを見越して、すでに手は打ってある。

宮殿を武装兵で固めても出来る穴。
単純だからこそ攻められる、そのセキュリティの抜け道。

正面玄関だ。

確かにチェックはする。刃物を持ちこむことはできないし、その時点で魔法は行使できなくなる。
エリア全体に貼られた巨大な魔法効果打消しトラップが働いているからだ。
残念なことに武装した兵も、魔法は使えない。

しかし、一つだけ弱点があるのだ。
武装兵でさえも知らない、魔法を本当に理解したものでしかわからない弱点が。

このトラップの効果を自分だけ被らないようにする方法が、その弱点なのだ。
それは、単純に、魔法具を用いて、自身の周りに同じ魔法力の同じ効果を持ったトラップをまとわせるのだ。
魔法の効果は相性という複雑なもので決まることが多いが、全く同じ属性で、全く同じ力を持った魔法は、相殺されてしまう。
もちろん、だからこそ、この技は非常に難しい。熟練の魔法使いでも、数十回に1回発動できるかどうかというレベルなのだ。

しかし、そのトラップを起動させるために使用した魔法具を、流用することで、成功率がぐんと上がる。
魔法具に残った残留効果が、そこに書き加えられるトラップと同調し、微細な分子からコピーされたトラップが出来上がる。
すべてがうまくいくわけではないが、この魔法効果打消しトラップという、比較的単純なトラップでは容易に行えてしまう。

では、なぜほとんどのものが知らないのか。
それは魔法を知らないことと、そして魔法具を使わないことが原因だ。
大昔はよく魔法をサポーターとして頻繁に用いられていたようだが、今は魔法具を持つものは「魔法弱者」と認定されてしまう。
差別をされるから、誰も使わないのだ。

だから分からない。理解できない。
この単純なトリックが見破れない。

対策は打った。今回は魔法具を使わずにトラップを起動させた。
それだけだ。別に面白くもない対策法だ。

また電話をかける。

「つまらんな」

『昔から感が冴えまくってますね。……魔法具をもって打消そうとした男を捕らえました。シールズの一味です』

「……つまらん」

『こちらで処分しておきます』

「あぁ、頼んだ。当日もよろしく」

『仰せのままに……それでは』

もっと面白い方法を思いつくやつが欲しい。
異世界というのは、つまらなすぎる。

プッシュ通知を

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です