「1時間目①」

オリエンテーション期間が終わった。
今日から通常授業が始まる。
校門からキャンパス内へと入ってくる生徒たちの中をすり抜け、俺は研究室へと向かう。

異世界学の授業……いや、ほぼゼミ活動であるが、この特別枠に認定された授業は5限からだ。
午前中が1、2限。だから5限は夕方だ。
そこからみっちり2時間が、ゼミ授業時間として与えられている。

「まぁ、実際は48時間なんだが……」

こっちの世界では2時間でも、リクシオンでは2日間。つまり、地球の1時間がリクシオンの24時間に相当するわけで、言うなれば毎週短期合宿をするのと変わらない。
異世界との時間差でこっちの世界に戻ってきたときに体調を崩す者も当初いたが、今は対策が施されている。
異世界側のゲートに、記憶にある時間感覚と体内に残留する経過時間記憶を圧縮する魔法陣を仕掛けたのだ。簡単に説明すれば、2時間で2日間の体験をしたかのような感覚にされるだけで老化はしない、ということだ。

端末から今日のレジュメを開き、印刷にかける。
150部ぴったり。
これは2限の授業用のものだ。

確かに特別枠で異世界学を開講しているが、もちろん他の教科も担当する。
異世界学は授業ではあるが、単位認定方式に従えば、実際はゼミなのである。まぁ、優秀な成績を修めると他の単位も認定されるという特別ルールが設けられてはいるのだが……。
それでも、ゼミであることには変わりない。

それに対し、俺がゼミ以外に持っている授業は、国際倫理学。その中でも「どうやったら全員が納得する世界運営ができるか」を研究テーマに、生徒たちに授業をする。
それ以外にも、リクシオンで培った経験とこの世界の常識をすり合わせて、流通やマーケティング、経営なども教えられるが、残念ながら所属は国際社会学部。そういった学問は俺よりもっと知識を持った商学部の教授が担当している。
だから、異世界学では総合的に様々な学問を通じて新しい発想力をつかんでもらうつもりだ。

1時間目の開始のチャイムがなる。1コマ90分。ここは一般的な大学と変わらない。
しかし、国際技術大学という世界に名の通った大学だ。授業方式はちょっと特殊。
講義も行う。だが、それ以上にリアクションとコミュニケーションが重要になってくるのだ。

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1時間目の授業終了のチャイムが鳴り、俺はレジュメと端末をバッグに入れ、肩からかける。そして研究室の戸締りを確認し、授業教室へと向かう。

しかし、遠い。遠すぎる。
休憩時間はちょっと長めの15分。というのも、キャンパスの端から端まで自転車で20分以上。……徒歩だと、その倍以上ということだ。
さすがに学部ごとに棟は分かれているが、他の学部の授業も、もちろん取れる。
つまりシラバスを見ずに取った運の悪く、愚かな生徒は、授業開始日に自転車を爆走させることになる。

幸い、2時間目の国際倫理学は研究室から徒歩10分。
いや確かに遠いのだが、まだマシだ。

行きかう生徒たちも早足で移動している。端末を取り出し、時刻を見る。
あと12分で授業開始。少しだけペースをあげ、教室へとひたすらに歩いていく。

そして着いた時には、授業開始5分前。
ペースを上げたはずなのに、想定所要時間で着いてしまった。どうやら、この時間を測定した人はせっかちらしい。

教壇に荷物を置き、端末をモニター装置とつなげる。マニュアルを読み込んでおいて正解だった。
初めてこれを触るが、なにも知らずに操作することはいささか難しいだろう。
何十個もあるスイッチと至る所にある接続穴。そして垂れ下がる数本のコード。

読んだのは端末との接続と操作部分だけ。だから他のコードやスイッチなど分かりはしない。
記憶を呼び起こし、配線していく。
アダプターをつなぎ、最後に端末と接続する。

自動的におりてきたモニターに表示される。

『国際倫理学   白鷺 湊』

白地の背景に授業名と名前が黒文字で描かれている。
なんともシンプルな画面だ。

授業開始まであと1分。
見渡せば、席の8割は埋まっている。定員数から計算すれば、ざっと120人ぐらいだろうか。
履修者は140名。

一人、また一人と。ぽつぽつと埋まっていく席を眺めながら、2限開始を待っている。

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