1時間目②

チャイムが鳴る瞬間は、駆け込みの生徒で物音が激しくなる。ざわつきと、物音が少し治まるまでのおよそ1分を俺は待つ。
そして、一言目を発して、授業がスタートだ。

「おはよう、って10時45分はもうこんにちはか。国際倫理学を担当する白鷺だ。とりあえずレジュメを配るから、後ろに回してくれ」

一番前の席は埋まらない。平均して、3列目、4列目あたりから埋まり始める。
前に行きたくないということはよくわかるのだが、それ以上に一番前は見づらいのだ。黒板は見上げる形になる。
だから実はちょっと後ろに下がった位置からのほうが、黒板が見やすくなるのだ。
俺も入学当初は一番前に座っていたが、一番最初の授業でそれを知り、それ以降は3列目の真ん中の列の席に座っていた。

まだ後ろまでは行きわたってはいないが、とりあえず話し始める。

「今配ったのは、今日からやっていくテーマだ。みんなは知っているように、この大学の授業はほとんどが講義とディスカッションで成り立っている。俺はどんどん振っていくから、思うままに答えてほしい」

返事はない。が、前列はうんうんと少し頷いている。その中に見覚えのある少女を見つけた。
スーパーの総菜エリアでぶつかった子、俺の異世界学を取った子。
そう、蜂須川結菜。
隣の子は、確か天音真琴だったか。
二人ともレジュメを見ながら、頷いている。
目線が合い、蜂須川は目をそらすが、天音はこっちを見ている。

さっと目を離し、続きを話す。

「で、他の授業だとオリエンテーションがあったと思うんだが、この授業はオリエンテーションを設けていない。というのも、半期の選択授業だからな。必修や必修選択なら……、まぁ例えば英語とかだな。あとゼミ方式の授業。これらはオリエンテーションが必須なんだが、選択授業は任意なんだ。で、ほらやっぱめんどいでしょ? 俺も来るのやだし、他も忙しいのに君たちもいやでしょ? ははは」

ちょっと笑いが起きる。変なプレッシャーはなくなった。
これで気楽に授業を受けてもらえるだろう。第1関門突破だ。

「そんで、今から授業始めるな。あ、持ち物は筆記用具だけでいいぞ。基本はレジュメとコミュニケーション、教科書なんかいらないからな~」

一斉に筆箱をあさる音が鳴り響く。レジュメを開いたり、パソコンを立ち上げる生徒もいる。
大体の準備が終わったと思ったところで、俺は用意したスライドをめくる。
スクリーンに映し出されたスライドも連動して、次のスライドへと移る。

「まぁ、今日からやるのは、簡単に言えば種類の区別は許されるか? ってことだ。例えば、昔はも今も人種で区別したりするだろ? それは正当なのかどうか。それから、俺らと動物というのも立派な種類による区別だ。どう思う?」

身近な話題から触れていく。この授業には答えがない。個々の考えを認め合って、その中で何が正しいのかを見極める。
積極的に生徒に話を振って、たまにふざけて、たまに真面目に。テンションの波を作りながら、授業をノせていく。

「……ってわけだ。つまり、俺らは人間という生物だな? でも動物にはならない。それはなぜだ? 人間の間での区別は人種差別となり批判されるのに、なぜ人間と動物は差別に値しない? ……このあたりから次回は始めようか。それじゃあ、課題は持論を持ってくること。ランダムに振っていくから、その時に答えられるようにな。はい、終わり」

ちょうどチャイムが鳴る。90分……いや、最初の1分は含まれないから、正確には89分だが、みっちりと議論をすることができた。
最初は戸惑いも見受けられたが、30分もすれば、どんどん意見が飛び交う。おかげさまで、もうスケジュールが狂ってしまった。しかし、それも授業。
なかなかに白熱した討論が見られて、満足だ。

ここから5限までは休憩。などと言いつつ、来週の授業用のレジュメとスライド作成。そして5限の異世界学の準備もやらなければならない。
本当にオリエンテーション期間の暇さが、もうない。
研究室に戻った俺は、コーヒーを口にしながら、いつもより早いスピードで端末に文字を打ち込んでいく。

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