ダークな現代ファンタジー? 『煙だけを食べる季節―カクヨム』

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《作品タイトル》

煙だけを食べる季節

《作品情報》

作者“”佐藤さくや

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あらすじ

死神となった瀬木根《せきね》は戦闘系統の能力を持つため、神に命令され、敵対する死神たちから天子《てんし》たちの街を守っていた。しかし、戦いの末、瀬木根はその神に騙されていたことを知り、ある目的を達するために街を出て、旅をすることになった。行きついた先にいたもう一人の神、宮内は瀬木根を受け入れる。しかしそこでも強力な戦闘系統の能力を持つ瀬木根は兵士として扱われ、神同士の争いに巻き込まれていく。

ジャンル

現代ファンタジー

キーワード

現代ファンタジー バトル 死神 能力 文芸 シリアス ハイファンタジー

掲載日  

2018年9月9日

《第一話特別掲載》  

 古いビルの最上階にある、四畳ぐらいの窓のない喫煙室。

 換気の具合は、いつもよくない。そして、蛍光灯はいつも眩しいぐらいに光っている。

 そこに六人が立っていた。

 同僚も上司もみんなそこにいる。ただ目も合わせないし、口も開かない。みんな、白いシャツの上に黒いスーツを着て、革靴を履いていた。

 その中の一人。瀬木根せきねという。あごが細くて頰に肉がない。頭からつま先まで、やせ細った男だった。ネクタイはしていない。

 タールが増えた。先週ぐらいか、はっきりとは覚えてはいない。吸った瞬間、口に悪いものをふくんだとはっきりとわかる。でももう、悪い気はしない。しょうがないと思うのだった。タールが増えたのは後輩の吸っていたものを一本もらって、そっちに変えたからだった。

 六人で一つのチームだった。

 最近の案件はちょっと重すぎる。最終的には自分で選んだわけだが、さすがに疲れる。というより、疲れた。さっきので大きな山は抜けたのだ。

 使ってもいい、天子てんしと呼ばれる人間の体を借りて、自分の体のように扱う。そして、その天子の体が使い物にならなくなったら、接続を切る。そしたら、元に戻ってくる。

 クライアントは人間じゃない。生物でもない。神だ。やたらと陽気で、無鉄砲なことばかりやらせる、背の小さい童顔だった。

 俺たちは死んだ。死んでここにきた。それからは、ずっとこの仕事をしている。

 失敗したときは死ぬときだった。正直なところ、もう死に慣れている。それでも最近はそういうことも少ない。尺が長いから、いちいち死んでいられないのだった。

「働け、かすども」

 へらへらしながら、神が入ってきた。

「お疲れっす」

 後輩の一人が、首だけを動かしてそう言った。

 赤羽という。二十代後半で死に、最近ここに来た男だった。鼻が高くて目は細い。両肩から手首まで、青緑色の刺青が入っていた。

 言葉使いは悪いが、一緒に動いてみて馬鹿ではないと、瀬木根は思った。

 お互いのことはあまりしらないようにしている。訳ありなのはあからさまだったし、自分自身、喋りたくなかった。

 煙草を灰皿に押しつけて、瀬木根は無言で喫煙室を出た。赤羽もついてくる。

「ここからは、二人だな」

 瀬木根が歩きながら言うと、そうですねと、赤羽は気の抜けた声で返してきた。

 こちらが接続を切ると、向こうの時間は止まる。まるでゲームのようだった。しかし、死んだ人間なのだから、自分たちが死んだ世界に戻って仕事をするのが普通じゃないのか。

 現場は、瀬木根たちが生きていた世界とは、大きく異なっていた。いないものがいて、ないものがあって、起こり得ないことが平然と起こる。

 まだすべてを把握したわけではないが、向こうの事情もそれなりにしった。

「他社に客を取られるぐらいなら、今回は客ごと殺してこいよ、瀬木根。判断するのお前だ」

 仕事部屋の前で、神がつけ足すようにそう言った。

 わかりました、と返し、瀬木根は扉を押した。すべてが白んでいる。瀬木根は踏み込んで、その空間に体を入れた。

 その瞬間から、銃撃戦。

 時間は動き出す。

 この世界は仕事上、現世と呼ばれている。そして、住んでいるのはみんな天子だ。基本的には天子を守り、戦うのが自分たちだった。

 思っていたような、地獄も天国もないらしい。でも、自分たちは死んだのだから、あの世なのはまちがいないだろう。

 俺たちは、神は神でも、死神だった。クライアントも自分たちも、そうらしい。昔見た、古いエスエフ映画を全部混ぜた感じだ。いや、現実なんてそんなもんか。遠い未来だって思えば、納得できる部分もあるしな。

 高層ビルの横、地下鉄の出入り口。瀬木根と赤羽は、体を低くしていた。

 街。

 水に囲まれた島だった。生きているのは、瀬木根と赤羽の二人だけで、他の四人は死んだ。応援はない。

 隠れているわけではなかった。とりあえず、一度ログアウトするために、潜っただけだ。

「いくか」

 自称、死神の鎌。人の頭ぐらいの大きさの灰色の毛玉が、言った。理屈はよくわからないが、こいつが力をかしてくれる。死神一人に、一匹という感じだった。グレイという名前らしい。自分で名づけたのか、命名されたのかは、知らない。

 くっついてきて、自分たちの補助をしてくれる役目。そういう生き物、または毛玉。瀬木根はそういうふうにだけ、考えるようにしていた。

 偉そうに、のこのことグレイが出ていった。

 瞬間、爆撃された。

「馬鹿」

 空中で、瀬木根は叫んだ。

「勝手に動くなって言ってるだろ、なんでわざわざお前が出ていくんだよ」

 一緒に、グレイも吹っ飛ばされていた。

「痛いよー」

 喋っているグレイの頭を掴む。それで、一時的に能力を得る。それで現世の規則を、無視できる。

 空中で、瀬木根は完全に静止した。

 撃ってきた敵の死神。勝てばいい。今はそれだけだった。

 赤羽の方が、先に動いた。瀬木根も続く。別の方向へ飛んだ。

 倍近い人数がいる。撃つより、殴るか、蹴るか、斬るか。そっちの方が早い場合も多い。単純といえば単純だ。

 この与えられた能力は、死神によって違う。

 よくある世界で、よくあるシナリオだ。

 でも、違う部分もある。

 お前らとは背負ってるものが、全然違う。

 コンクリートの分厚い壁。その向こうの、自動販売機。そこに背中を当てていた敵。まとめて、拳一つで粉々にした。

 だから、生きてる理由が違う。戦う理由が違う。覚悟が違う。そう思えたら、こんな第二の人生も悪くないのかもな。あいにく俺はからっぽで、その上わけわかんねえことであっさり死んだ馬鹿だ。背負うものも、なんも見つかる前に死んだ。感覚としては、もうこっちの世界で生きている方が長く感じるぐらいだ。

 音を立てて崩れたがれきが、動きを止めた。それでなんの音もしなくなった。うしろをみると、赤羽もすべて片づけてしまっていた。

「よし、進むぞ」

「ちょっと待ってください、今いきますから」

 赤羽が能力を解除して、横に並んだ。

 グレイはいつも歩かず、空を飛ぶ。いまも瀬木根の上を、ふわふわと漂っていた。多分、半分眠っている。いつものことだった。

 運命を定める場所。それが、ここだという。正と負の運命が、常にせめぎ合って、時は成り、そして進む。点だと思ったそれが、実は球体だった。神から話を聞いたときは、そんな感覚になった。目には見えないが、想像はできた。

「まずそこに無限があり、それをより合わせて、世界ができる」

 神は格好つけて、そんなことを言っていた。自分たちがいましていることが、俺らが生きていた頃の世界になにかしらの影響を与える。大まかには、そんなところだろう。

 大義もなにもないが、瀬木根は歩き進んだ。敵地に乗り込んだ形だった。今回の内容は、ただ、攻めていくだけだった。天子はここらには住んでいない。

 なにかしらの攻撃がきた。飛んできた。

 攻撃ではなく、他社の死神だった。

 名前はもちろん知らないし、どういう理由でわざわざ、こんな殺し合いをしているのかも、知らない。ただ、瀬木根は何回かその男の顔を見ていた。神にはそのことは詳しく言っていない。しかし、なにか知っているような感じがあった。

「なんだ、一人か」

 赤羽が言う。二人同時に動いた。

 爆風。

 それと、炎。

 弾けるように、二人は互いに距離をとる。

 死ぬ前に自分はなにをしたのか。能力はおそらく、それに依存する。俺はなにもない。グレイから能力を引っ張り出す。俺には、なんのこだわりもない。だから、能力にも脈絡や統一性がない。

 赤羽は、違う。

 自分の相棒と一体化した際、体が平面になる。この現世の規則を無視できるという部分は自分に共通するが、赤羽のようなことはできない。

 赤羽の体は、すでに紙のようになっている。体全体が薄い。一方からはあまりに薄すぎて、赤羽がみえないほどだ。

 ただ、あくまで体はこっちの天子のものを借りているだけだ。死神は本当の意味では死なないが、この世界から追い出されることは、仕事上、死んだのと同じことだ。

 もう一方からも、攻撃が来た。瀬木根はグレイに触れる。

 赤羽に背を向ける形になった。それぞれ、応戦する。合図はないが、お互いがそう理解した。

「新入りか」

 避けながら、瀬木根は、大きな戦斧で斬りかかってきた男に話しかける。瀬木根の悪い癖だった。怖いものみたさ。それだった。自分より若い。しかし、体は大きな男だった。

 瀬木根の言葉を無視して、さらに男は斬りかかってくる。

 頭上。振り下ろされた戦斧せんぷ

 瀬木根は手のひらを向ける。手を叩くような、乾いた軽い音だった。男の戦斧は、弾けていた。相手じゃない。そう思いながら、拳を男に叩き込んだ。違和感。瀬木根はなにも殴れなかった。

 誰も、そこにいない。瀬木根は、赤羽の方を見た。

 前はここまで、完成されてはいなかった。火に包まれた男が、遠くでこちらを見下ろしていた。その男の能力の一部だ。その男の横に、赤い塊がいくつか生じた。それが、さっきの戦斧の男になった。

 十人以上。完全な実体として、そこにいる。科学は詳しくない。そもそも、この世界でそういうものが通用するのかどうか、疑問だ。だから、能力が変化したって、おかしくはない。

 男の周りの火が消えた。同時に、周りの戦斧を持った男たちが、走り出した。こっちに向かってくる。多分、こいつらは何回倒したって、また増える。

「赤羽、こいつらに構うな。幻みたいなものだ」

 言いながら、瀬木根はグレイを呼び寄せ、触って能力を足した。前方で、吹かれたように、薄い赤羽の体が舞い上がる。やはり薄すぎて、時々、視界からいきなり消える。

 敵の半分は、自分に向かってくる。遠くをみると、さらに数が増えていた。顔がはっきりとわかる距離になる。もう、赤羽を気にする余裕もなくなった。

 戦斧をかいくぐり、殴る。囲まれないように、壁側による。

 上の方で低い音がなった。大きな、黒い塊。煙だ。

 赤羽がやられたのか。

 真横。

 炎だった。

 その向こうに、男がいた。爆発やら、熱風やら、すべてを瀬木根はまともに食らった。

 体の表面が、少し熱い。感じたのは、それだけだった。

「うわ、二人ともやられてるじゃんか。まじか」

 神の声。別に、残念そうには聞こえない。仕事部屋で、瀬木根は目を覚ました。あの扉の向こうにいる。立っている。赤羽も、そこにいる。

「なんか、あった?」

 部屋というより、ただの空間。白だけで、自分たちがそこに浮いているような感じだった。神のいる後方は、いつもの廊下に続く扉で、そこだけが不自然にはっきりと映る。

「なんか、炎を出すやつがいて、燃やされました」

 赤羽が神に答えた。

「瀬木根、確かお前が前に言ってたやつだな?」

「そうですね。多分」

「ふうん。二回目か。また負けたのかよ、使えねえなあ」

 そう言って、神は背を向けた。

「俺が向こうにいけたら、一発なのになあ」

 神の声は、少しだけ不機嫌な感じに変わっていた。

 腹が立った。しかし、瀬木根は不思議に思った。別に、腹を立てる理由なんかない。

「次は、また最初からですよね」

「そうだな。それか、別の仕事だろうな」

 話しながら、瀬木根と赤羽は廊下へ出た。

 横に並んだ。歩く。

 喫煙室の反対側。廊下の向こう。

 そこにも、世界がちゃんとある。

 ビルの最上階。窓から見下ろすのは、地方の寂れた街。

 普通に生活がある。時間が進んでいる。誰かが生きている。

 そうらしい。

 階段を上がって、二人は屋上へ出る。

 このビルから、出ることはできない。

 だから、いつも見下ろしてばかりだった。

 夕方だった。

 吸うなら、ここで吸いたい。しかし、それは神に禁じられていた。低すぎて意味のない柵に肘を乗せて、瀬木根はため息をついた。

 なにが本物なのか、正直もうわからない。

 生きているのか、死んでいるのか。

 その境界も。

 時間が経つほどに、変わっていく。

 しばらくして赤羽が、吸ってきますと言って、降りていった。遠くをみていたら、なにかがみえる気がしていた。視線を変えず、瀬木根は街と赤い空の境目を見ていた。

《感想》

この小説を一言で表させていただきますと、漫画にした方がよい小説といった感じになります。

この小説に足りていないものは風景描写です。

世界観は深く考えてられているのに、風景描写や情景描写が少ないせいでどんな世界なのかがほんの少し伝わりにくいんですよねー。

学校があるくらいですから、おそらく現実世界に近い感じなのでしょうが……。

ただ、風景描写を削っている代わりに心理描写の面ではとても優れた小説となっています。

言い回しが少し独特なところがありますが、それも心理描写に関してはうまくマッチしていてダークな雰囲気をいい感じに醸し出していますね。

個人的に情景描写をもう少し多用してみたらよいのではないかと思いました。

現代的で現実的なファンタジーが好きな方にはおすすめの小説です。

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