優しい? 魔王軍幹部『欠陥魔道書と歩く愉快な異世界~バグでステータスがカンストしたので好きに生きる~』

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《作品タイトル》

欠陥魔道書と歩く愉快な異世界~バグでステータスがカンストしたので好きに生きる~

《作品情報》

作者“さとね”

 

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あらすじ

大学に全落ちした俺、サイトウハヤトは電車に轢かれそうな少女を庇って異世界転移した!?
転移先で持っていたのは一つの魔道書。でもこれが欠陥品でステータスがカンストしちまった!?
さらに上がったのは身体能力だけで、使い物にならない魔法まであるのか!?
しかも、
「こんなうまー! な血は初めてだ!」
「私は可愛い少年がいないと力が衰えるんだ」
「ヘイヘイ! いらっしゃいなのですよ!」
なんだこの残念な異世界人たちは!? もう知るか!
個性たっぷりなこの愉快な異世界で、俺は好きに生きてやる!

ジャンル

ハイファンタジー〔ファンタジー〕

キーワード

R15 異世界転生 異世界転移  日常 ギャグ シリアス ほのぼの 男主人公 勇者 魔王 人外 微ハーレム ハッピーエンド チート 魔法 主人公最強 OVL大賞5

掲載日  

 

《第一話特別掲載》  

 怖くて目を瞑ってから、随分と時間が経ったように思えた。横目に見えるほどに電車が近づいていたから、すぐにでも体が吹き飛んでもいいはずなのに。

 疑問に思った俺は、恐る恐るゆっくりと目を開けてみた。

「……は?」

 これが、この世界での俺の最初の言葉だった。なんとも腑抜けた声だったな、とつくづく思う。

 過去に宇宙に行った偉人達は、月に降り立った時や地球を外から見た時の最初の一言が歴史に刻まれたりもするが、俺の場合はどうだ。「は?」だ。今すぐにでも何か別の事を話して歴史の改ざんをしようと思ったが、あまりにも現実離れした現象に、俺の頭は回らなかった。

 というのも、なぜ俺がここまで焦っているかというと、答えはすこぶる簡単で。

「これさ、異世界ってやつじゃね?」

 俺の視界に広がっていたのは駅のホームでも線路でもなく、壮大で、広大で、この世とは思えないほどに美しい緑色の草原だった。

 くるぶしの辺りまで生えた鮮やかな緑色をした草以外に、周りには何も見えない。そんな戸惑う俺を歓迎するかのように、爽やかな暖かい風が俺の体を撫でた。

 さっきまでコートを着て防寒していたのに、十度以上も一気に気温が上がった感覚がある。

 そして、野性の動物すらいないこの状況。加えてあのほぼ死の確定した線路上での出来事。

 さらに極めつけは──

魔道書グリモワール、ねぇ」

 知らない草原の真ん中で俺の手に握られていたのは、一冊の分厚い本だった。日本で一番厚い例の辞書といい勝負をするんじゃないかと思うほどに大きい本が、いつの間にか俺の手の中にあった。

 そして、こんな理解不能な状況でなぜこの本が「魔道書」であるのかどうかが分かるかというと、その答えもとても簡単。

「まぁ、本を開いて一ページ目に『異世界転生者のあなたへ魔道書グリモワールのプレゼント!』とかご丁寧に日本語で書かれたら、そりゃあ信じるしかないわなぁ」

 なんとまぁ親切な異世界転生だろうか。ペラペラと魔道書グリモワールをめくってみると、最初の数ページは猿でもわかる異世界チュートリアルだった。

 ──異世界転移者へ。此度の死は誠に残念でした。あなたは審査の結果、異世界へ転生する資格があると判断されたため、再度人生をやり直す機会をプレゼント致します。

 もちろん、あなたが今まで努力してきた前世での行いは、決して無駄にはなりません。ポケットの中に、あなたの名前が書かれた紙が入っていると思います。そこに書いてある数字が、あなたが前世で積んだ徳の量です。最小が一。最大が三万です。

 このポイント数が、あなたの最初のステータスを決めます。当然ですが、この世界で努力をすればポイントは増えていきますから、最初のポイントが少ない人でも安心してください。

 次のページから、ステータス割り振りのチュートリアルが始まります。魔道書グリモワールの指示通りに進めば準備は完了です。

 それでは、良い人生を!

 女神リアナ。

 あまりにも丁寧過ぎる説明に、俺は若干引いていた。

「こんな親切な異世界転生見た事ねぇぞ……」

 しいて言うならこの最後に書かれた女神様を一目見てみたかったが、これ以上望むのも申し訳なく感じた俺は、魔道書グリモワールに書かれた通り、次のページに進んだ。

 ──ステータス割り振りへ移行します。ポケットからポイントの書かれた紙を取り出し、次に記されたステータス表のページの指示に従ってください。

 確か、前世で積んだ徳の分だけポイントがあるんだよな。

 これってさ、つまりは俺の今までの人生が数字になるってことだよな。

「意外と自信あるぜ。俺は週に一度は絶対に食器と風呂場は親に任せないで自分で洗うって小さい頃から決めてんだ。それに命かけて女の子助けたし、それはもうものすげぇポイントが……」

 俺は自分のポケットに入っていた紙を見て、目を丸くした。この理由は察してくれ。ただ、週一の親孝行なんて徳でも何でもないって事がよくわかっただけさ。

「これ、五ポイントしかないんだけど」

 もしかしたら漫画の裏のあらすじみたいに最初の一文字が大きくなっていて残りが小さく印刷されているのではと疑った俺はかけている眼鏡を通して全力で紙を睨みつけてみる。

「これ、五ポイントしかないんだけど」

 最大三万って書かれてたから、五ってことは雀の涙って言葉で形容しきれないくらい小さいじゃねぇか。どうなってんだこれ。

 確かに、俺の食器洗いたちがポイントに加算されないことは百歩譲って認めよう。でも、でもさ。俺、女の子助けたじゃん。怖いの我慢して、命かけたんだぜ? さすがに五はないだろ。五は。

 とか思いつつ、まぁ自分の人生なんてそんなものだったと納得出来てしまう自分もいるあたり、あながち間違ってはいないのかもしれない。

 自分の無価値な人生の悲しみに浸りながら俺の名前と、その下に数字で5と書かれた紙を見つめていると、魔導書グリモワールのページは勝手にめくれていく。

 ──表示されたステータスに好きなように数字を割り振ってください。その数値があなたの能力に直接反映されます。各ステータスについての詳細は、魔道書グリモワールの後半部に記述がありますので、そちらを参照してください。

 悲しみに暮れる俺の事など無視して、魔道書グリモワールは機械のようにチュートリアルを進めていく。

 ──ページの右下にポイントの書かれた紙をかざすと、自動でポイントが加算されます。次に表示されるHP、MP、そして五つのステータスに、あなたの好きなようにポイントを振り分けてください。もし間違えてしまった場合は、「リセット」と発声をすれば一度全てのポイントが初期状態に戻ります。

 本当に親切だな。これ、本当は異世界じゃなくて天国なんじゃねぇの? ポイントが五しかないのはクレームの一つや二つくらい入れておきたい所だけど。

 そして、再び魔道書グリモワールのページがめくれ、、俺のステータスが現れた。

【サイトウ ハヤト】

【HP】 10

【MP】 10

【力】  1

【防御】 1

【魔力】 1

【敏捷】 1

【器用】 1

【スキル】無

 まぁ、そうだよね。最初だからね。仕方ない。

 多分、俺が想像するに、前世でどれだけスポーツが出来たり、頭が良かったりしても、恐らく俺と同じこの初期ステータスになるんだろう。

 そして、前世に積んだ徳や運動能力がこの紙一枚に託され、再度自分の力をゼロから設定できるのだろう。つまり、この紙は俺がどれだけいい事をしてきたか以上に俺の人生を表した紙ってわけだ。

「どうして、こんな紙切れ一枚で人生が決まっちまうのかなぁ」

 俺は死ぬ前とは別の紙に死ぬ前と同じ文句をぶつけてみる。何も変わりなどしないとわかっているから、はぁ、と溜息が洩れた瞬間、俺はあることに気付いた。

「この紙って、もしかして」

 俺は再びポケットに手を突っ込んで、もう一枚の紙を取りだした。その紙に書かれているのは、俺の名前と、受験番号である、24356が書かれた紙。つまりは俺が死んでこの世界に来るきっかけとなった大学の不合格を伝える紙だ。

 何でこの紙を急に取りだしたかと言うと、

「やっぱり、そっくりだ」

 掌よりも少しだけ大きく、淡白に書かれた俺の名前とその下に寂しげに佇む番号。内容も、文字の配置も、偶然にも一致していた。

 それを見た俺の頭に、ちょっとした疑問が浮かんだ。

「これさ、受験番号の方を重ねてみたら間違えて読み込んでくれたりしないかな」

 好奇心に身を委ね、俺は24356と書かれた紙を試しに魔道書グリモワールにかざしてみた。

 すると、本に書かれた記述がじわじわと変わり始め、別の文書が浮かんできた。

 ──サイトウ ハヤト様。合計ポイントは24356ポイントです。それでは、実際にステータスを割り振ってみましょう。

 ……え? マジで反応しちゃったんだけど……。

 動揺する俺の事など気にせずに、魔道書は行動を促し始める。

 ──各ステータスの横にある四角で囲まれた空白に触れると、触れた回数だけそのステータスにポイントが加算されます。ポイントが多い場合は、長押しでまとめてポイントを振ることができます。

 どうしよう、これ。今、俺は間違えて自分の人生の約2500倍のポイントを手に入れてしまったわけだ。こんな俺でもさすがにこんな不正をしてしまったら少しだけど罪悪感が湧いてきた。

 ここで俺は、ある決意をした。

 このポイント、ちゃんと溜めて正しく使おう。

 ポイントを不正に獲得してしまったが、使わないなら問題もないだろう。道端で大金を拾ったから、いつか返す日のために家に保管していたならギリギリセーフ……だろう。そうに違いない。

「んじゃま、とりあえずは力に五ポイント全振りして、一撃で倒せるモブの魔物とか倒して増えたポイントを地道に他のステータスに振って……って感じかな」

 これが俺の鉄板ステ振りだ。賛否両論あるだろうが、俺はRPGをやるときはこの振り方って決めてんだ。

 俺は年季の入り少し黄色がかった心地よい肌触りの空白に指を置き、【力】にポイントを──

【力】12

 やべ。長押ししてたら多めに振っちまった。

 でも、さっきリセット出来るって書いてあったし、大丈夫だろう。

 そう思うと、俺の中の醜い、まるで一浪したにもかかわらず大学に全落ちしたような心の悪魔が顔出し、何かを囁き始めた。

 もちろん心に清らかな天使など存在しない俺は、心の赴くままに指を再び空白に置いた。

【力】999

 俺のステータスは、ここでピタッと止まった。つまり、ステータスは999がカンストってわけだ。上限を知れたのはまぁちょっとした収穫だな。

 ……じゃあ、他のステータスの上限も見てみたくね?

 俺の中の悪魔のような俺が、そう呟いた。そして、俺は再び指を魔道書グリモワールに置く。そして──

【サイトウ ハヤト】

【HP】9999

【MP】9999

【力】 999

【防御】999

【魔力】999

【敏捷】999

【器用】999

【スキル】無

 ……やってしまった。

 でも、リセット出来るから大丈夫だろう。えっと、これを初期化するには「リセット」って言えばいいんだよな。

「リセット」

 何もない広大な草原に、俺の声が寂しく響いた。

 ……あれ? 反応ないぞ。

「リセット」

 またもや無視。どういうことだ。何か手順を間違えたのか?

 俺は魔道書グリモワールのページを戻して確認してみるが、やはり「リセット」と発声してくれとしか書いていない。なら、何が問題だ?

 そこで俺は、ここが異世界だと言うことを思い出した。

 もしかして、言語が日本語じゃない?

 魔道書グリモワールが日本語で書いてあったから素直に日本語で発声したが、さすがに異世界でもすんなりと日本語が使えるとは考えにくい。こんなに親切な魔道書グリモワールだ。きっと言語についても何か書いているだろう。

 ペラペラと分厚い魔道所グリモワールのページをめくっていると、やはり記述があった。

 ──この世界は、あなたの世界とは別の言語が使われています。左に記述されたスキル【言語ワード】を習得することで、この世界の言葉を習得出来ます。

 書かれた通りに左を見ると、

言語ワード】必要ポイント 1

 そう書いてあった。

「こりゃあステータス削ってでも獲得しなきゃいけないよな」

 持っているポイントが多くて助かった。もしこれに気付かずにスルーしてたら最初の街で積むところだったぜ。

 俺は早速スキル【言語ワード】を一ポイントで習得して、もう一度リセットを試みる。

「リセット」

 ──魔道書グリモワールに異常が発生しました。リセットが出来ません。

「え……?」

 いやいや。嘘でしょ?

「リセット」

 ──魔道書グリモワールに異常が発生しました。リセットが出来ません。

 異世界の草原に吹く風は、それはそれはとても気持ち良かった。

 呆然と立つ俺の手の中にある魔道書グリモワールを、爽やかなそよ風がめくった。

【サイトウ ハヤト】

【HP】9999

【MP】9999

【力】 999

【防御】999

【魔力】999

【敏捷】999

【器用】999

【スキル】【言語ワード

 ──残りポイント 17360

 これ、俺は悪くないよな。この魔道書グリモワールが悪いよな。このミスは完全に制作者側のミスだし。俺にも真面目に五ポイントで始めようっていう気はあったし。悪くないし。

 だから、いいよね?

 こうして、この欠陥魔道書バグリモワールのおかげで、ステータスがカンストした状態から、俺の異世界人生の幕が開くこととなった。

「むむっ。視界がくもってると思ったらステータスが上がったから視力も上がって度が合わなくなったのか」

「……これでようやくガリ勉風インキャからの卒業が出来るのか……? いや、待てよ。それでも分厚い本を持って歩く時点でガリ勉風は抜け切らないな」

「……とりあえず、陽キャっぽく声出してみるか」

「ウェーイ!!」

「…………これはキツイな。はぁ」

「……どうすんのさ、これ」

《感想》

この小説はTwitterのRTした小説読みに行くタグで見つけたものだったのですが、素直に面白かったです。

文章も非常に読みやすいですし、作品構成も工夫こそないもののしっかりしている。

それに何より王道小説に若干の変化球を加えてオリジナリティを発揮することができています。

バグから始まる異世界生活はさすがに草っすね。

小説本編を読み始める前に言われても意味が分からないと思いますが、魔王群だからと言って必ずしも悪い奴だとは限らないのですよね。

人類の偏見が魔王=悪という現状を作り出しているわけであって、それは決定事項ではありません。

変化球を加えているとはいえ異世界王道小説と言われればその通りなので、あまり得意ではないという方もいらっしゃるとは思います。

ですが、好きな人にとってたまらない小説のはずです!

読みやすい文章でテンポよく綴られた、勇者側にも魔王側にも属さない? 主人公の異世界生活をぜひご一読お願いしますm(__)m

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