ダークな世界観が好きだけど、重たすぎる世界観は嫌いという方へ『スノウ・フラッド』

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《作品タイトル》

スノウ・フラッド

《作品情報》

作者“オオミヤ”

 

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あらすじ

雪の世界。機械仕掛けの、人間を狙う凶悪な『巨人』が跋扈する世界。
そこでは、『人間』たちが、抗うもの達が、たしかに存在していた。

摑み取れ。それでこそ、君は『人間』だ。

ジャンル

ハイファンタジー〔ファンタジー〕

キーワード

オリジナル戦記 冒険 シリアス 男主人公 ロボット 群像劇 ネット小説大賞七

掲載日  

2018年 11月08日 14時56分

《第一話特別掲載》  

「今だっ! 畳み掛けろ!」

 銃を撃つ。槍を刺す。斧や剣を振り、切り裂いていく。コードやネジを吹き飛ばす。

 手足の重要な機関部を傷つけられ、『巨人』は膝をついた。

「いいぞ! 核部を破壊するんだ!」

 一人の青年が巨人によじ登り、核を探す。

 あった。背中、人間でいうと胃がある辺りだ。

 生命の危険を感じたのか、巨人が起き上がろうとする。機械仕掛けの巨人に生命があるかはわからないが。

「起きるぞ! 打ち込め!」

 先ほどから号令を掛けているリーダーらしき中年が周りに指示を出す。皆が一斉にワイヤーを打ち出す装備『キャスター』を取り出す。

「足と首にかけろよ! ノックス! しっかり捕まれよ!」

「分かってます!」

 リーダーから声を掛けられた、巨人によじ登っている青年、ノックスは首にぶら下がりながら返事をする。

 キャスターから撃たれたワイヤーは巨人の足や首の打ち込まれ、巨人はバランスを崩す。

「今だ!」

 リーダーの号令で、男達は一斉にキャスターのレバーを引く。凄まじい力がワイヤーにかかり、ワイヤーが巻き取られる。12メートルある巨人が倒れ、辺りは飛び散った雪で視界が悪くなった。ノックスはゴーグルをつけ、首から飛び上がった。青光りする核に狙いをつけ、着地する勢いで、手に持った槍を核に深く刺す。

 巨人は断末魔のような軋みを上げたあと、動かなくなった。

「ようし、ナイスだノックス! さすが第54ジェネレータの勇者!」

 巨人から飛び降りたノックスを待っていたのは、勇者に対する歓声と喝采だった。

「勇者だなんてそんな。皆さんがサポートしてくれたから」

「いいってことよ! 皆、お前がカッコいいとこが見れて満足なんだぜ?なぁお前ら!」

 おう!と男たちから屈強な声が聞こえる。「な?」とウインクする、口髭をたっぷり蓄えた中年はノーム。巨人狩り13年のベテランだ。第54ジェネレータの巨人狩り部隊の隊長を務めている。

「お前のおかげで、このクソ巨人からたくさんの部品が取れる。俺たちは潤うんだ」

「ありがとうございます。じゃあ、今日は俺が奢ります!」

「おお、よく言った! よし、野郎ども! 今日はこいつの財布を空にするぞ!」

 歓声が湧き上がった。降りしきる雪のなか、男たちの暖かい笑い声がどこまでも響いていった。

 第54ジェネレータの村の最大の酒場『ノストラダムスの叫び』は今日もどんちゃん騒ぎで溢れかえっている。厚ぼったいコートを脱ぎ、戦いで冷え切った体にビールを染み込ませる。まるで天国にまで連れて行ってくれそうだ。隊長のノームもそれに漏れずはしゃぎ、隊員達と飲み比べで勝負して居た。

「そこでノックスが言ったのさ、『俺に任せろ!』‥‥‥そこからはもう鮮やかだったよ。8メートルもある巨人を蹴り倒して、そのまま核をグサリ、だもんなぁ」

 巨人狩り部隊のお調子者、ルーザがノックスの武勇伝を誇張をしまくって話す。それをノックスは隅のテーブルで苦笑いで聞いていた。

「あら、随分余裕そうね。さすが勇者サマ」

 騒ぎに混じることもなく、一人でビールを飲んでいるノックスに声を掛けたのは、この酒場の看板娘のノエルだ。金色の髪を持ち、エプロンにバンダナ、昔ノックスが渡したペンダントをつけている。ノエルは、仕事を放棄してノックスのとなりに座る。

「仕事はいいのかよ」

「いいのよ。みんな気づかないわ。酔っ払ってるし。それよりこんな騒ぎで、お財布大丈夫なの?」

「いやぁ、結構ピンチかも。もしかしたらつけといてもらうかもしんない」

「全く。それにいいの?また兄さんがあんな話勝手にしてるけど」

「もう慣れたよ。あいつには随分助けられてるし、あいつはああいう話が好きなんだろうしさ」

「あんたってお人好しね。あんなに恐ろしい巨人を倒してる人とは思えない」

「皆どう思ってるからわかんないけど、俺は人一倍臆病だよ。死にたくないし、みんなを死なせたくないし」

「あら、随分と傲慢ね。あんた一人で全部背負った気になってる?」

 ノエルはいたずらな笑みを浮かべる。この酒場の看板娘であるゆえに多数のセクハラにあいやすい彼女は、尻を触ったその手を容赦なく折り、顔を蹴りつけるほど強烈な気性を持つ。そのため恐れを知らずにどんどん踏み込んでくる。特に親しい者には。だから過剰とも取れる冗談だって挑発だってするのだ。しかしそれは親愛の裏返しでもある。

「そんなつもりは毛頭ないよ。けど、俺にできることは全部するつもりだし、そうしたいと思ってる」

 ノックスが真面目な顔で言うと、ノエルは大げさにため息をついた。

「昔が懐かしいわ。一人でびーびー泣いて、いっつも『ノエルちゃんいぢめないでー』って。あん時は可愛かったのに」

「うるさいな。昔の話はいいだろ? それよりビール。瓶でくれ」

「はいはい」

 ノエルは席を立ち、カウンターから瓶ビールを持ってくる。待ってる間、ノックスはコートを羽織る。

「はい」

「ありがと。じゃあちょっと出てくるよ」

「うん。いってらっしゃい。お兄さんにちゃんとよろしく言っといて」

「おう。すぐ戻るから」

 そう言って酒場から出る。空を見上げ、息を長く吐く。白い靄のような息がゆっくり空中に消えていくのを見届けると、その先に鈍色の雲に覆われた空が見えた。

 今日はいつもよりも雪が少ない。とは言え、少しでも立ち止まっていればあっという間に頭に雪が積もってしまう。しかし、一寸先が見えないと言うわけでもない。ここ最近ではそう見ない天気だ。そもそも一年を通して雪が降っているので、あまり雪が降らない季節というものを知らない。

 ザク、ザク、と深く積もった雪を踏みしめる。暖かい酒場からでた体は瞬く間に冷え、鼻の頭が赤くなった。遠くには稼働中の第54ジェネレータが黒煙を吐き出しているのが見える。あれがなければ、今頃このあたりはマイナス50度まで冷え切り、自分たちは凍え死んでいただろう。

  進んでいくと、森が見える。ここは第54ジェネレータの住人からは『鎮守の森』と言われている。死者を弔うための森だ。

 この木は巨人が嫌がるオイルを含む特殊な木だ。ジェネレータもおそらくこの木のオイルを含んでいると思われる。加工するにはあまりに固く、オイルも一本辺りごく少量しか取れないため、この木の使用を諦めた経緯を持つ。ここの他に、いざという時の避難所もこの木に覆われている。

 森に入ると、規則正しく暮石が置かれているのが見える。その中の一つに、ノックスはまっすぐ向かった。

「兄キ、元気だったか?」

 そう言ってノックスは瓶ビールを暮石の前に置く。

「今日は12メートルのやつを倒したよ。皆褒めてくれた。俺、兄キに近づけてるかな‥‥‥」

 ノックスは暮石の前に胡座をかき、うなだれる。

「時々不安になるんだ。皆、俺を通してどこか兄キを見てるんじゃないかなって…。だから、俺は強くなきゃいけないし、強く在らなきゃいけない‥‥‥」

 ノックスは暮石をじっと見つめる。暮石から聞こえる声を期待するように。しかし、聞こえるのは、かすかな風の音、そして揺れる木々の音だけだ。雪で音が遮断された空間は、静謐で、どこか侵しがたい雰囲気を醸し出していた。

「‥‥‥こんなんじゃ、また兄キに怒られるや。しっかりしなきゃな」

 そう呟き、立ち上がり、懐から煙草のケースを取り出す。ケースから2本の煙草を出し、1本を咥え、マッチで火をつける。ゆっくり煙を吸い込み、吐き出す。もう1本にも火をつけ、暮石の上に立てた。そして瓶ビールの蓋を開け、タバコが倒れないように暮石にビールをかけていく。満遍なく、暮石中にかける。ビールが空になると、再び座り、煙草を無言で吸いきった。自分の煙草が無くなると、暮石に立てた煙草を消し、空の瓶を持って立ち上がる。

「じゃあ、またくるよ。今度はなんか食いもん持ってくるから」

 そう言って振り返り、立ち去ろうとする。

 振り返った先には、4メートルの巨人が居た。

「‥‥‥おい、冗談だろ?」

 思わず声が震える。巨人は無機質な目でこちらを見ている。赤く光ったメインカメラはノックスをまっすぐ捉えていた。ノックスの反応が遅れていると判断したのか、巨人は左手に装着しているガトリングガンを向けた。銃口が回り出す。

「クソっ!」

 ノックスは急いで踵を返すと、暮石の後ろに飛び込んだ。無意識か意識的か、兄の暮石から遠い暮石だ。そのほんの一瞬後、ノックスが居た場所はガトリングガンから放たれた銃弾で石畳が抉れた。

  巨人はガトリングガンを冷却するために立ち止まり、ノックスをメインカメラで探す。槍は持ってきていない。ノックスは暮石の後ろで、懐から拳銃を取り出した。兄の形見である、三十八式拳銃。無骨なフォルムが黒光りする。

 メインカメラがそっぽを向いた隙をつき、銃を構える。物音に反応してメインカメラがこちらを向いた瞬間、正確にカメラを撃ち抜く。乾いた音が静かに響く。

  メインカメラを破壊された巨人はヨタヨタと後ずさり、ノックスの姿を探すように彼方此方を向く。ノックスは回り込み、核を探す。首のうなじに、核の青光りが見えた。

 しかし、核を見つけた時、後ろ手で左手のガトリングガンの銃口が向けられる。

「ヤバっ‥‥‥!」

  ノックスは巨人に背に向かって斜め左に走り抜ける。スライディングして減速。巨人は再びノックスの姿を見失ったようだ。

  この巨人は、どうやら音にあまり敏感ではない。足音で場所を特定はされないだろう。しかし、核の所にサブカメラがある。後ろに回り込んでも、その瞬間ガトリングガンからの、銃弾の歓迎が待っている。

 近づいたとしても、流石に近くの音を拾えないほど音に弱くないだろう。だとしたら取れる手段は、やはり銃による中距離攻撃。だが核にはカメラがある。

 ノックスは身をかがめ、雪に隠れるようにしながら注意深く観察する。足、手、首や関節部分。何か異常はないか。

「あった」

  小声で呟く。勝利を確信する。

  右足の膝部分。膝裏の装甲が剥がれている。コード類が剥き出しだ。もともと間接部分は装甲が薄いので狙いやすいが、これは大いなる弱点だ。

  問題はサブカメラが認識する範囲だ。ちょうど石畳に巨人が背を向けた。雪の中を弄り、手のひらに収まるサイズの石を見つける。サブカメラの死角と思わしき地点、頭と肩を結んだ直線の延長線上を狙って石を投げる。巨人のだいたい3メートル程度の場所の石畳に当たって音がなる。ガトリングガンが火を吹いた。石畳が抉れる。

  石畳に当たって音がなってから攻撃した。つまり、ノックスが今投げた場所はサブカメラが映さない。おそらく、広いのは横幅だけで、縦幅の映す範囲は広くはない。

 ノックスは音を立てないように慎重に歩を進める。狙った位置、死角に着いた。右足の膝裏に狙いを定め、引き金を引く。

 銃弾は吸い込まれるように目標に飛んで行き、着弾する。剥き出しのコードが焼き切れ、巨人は膝を着く。しかし自重に耐えきれず、倒れてしまう。手をつこうとしたが、左手でついてしまったためガトリングガンが折れ、銃身が曲がる。

  ノックスは後ろに回り込む。起き上がろうともがいているが、膝裏の故障でうまくいかない。

  ノックスは銃を構える。引き金を引いた。

  三度、乾いた音が響き、核の光が失われた。巨人は大きく身を震わせると、動かなくなった。

「なんで、ここに巨人が…?」

 ノックスは銃のマガジンを入れ替える。何か嫌な予感がしていた。いつしか雪は強くなり、一寸先も見えなかった。

  ゴーグルで吹雪く雪を防ぎ、なんとか進んで行く。銃はしっかり手に握られている。鎮守の森に行く前はたくさんの足跡があった通り道は、新たな雪で覆われてしまっている。向かい風が強い。立っていられないくらいだ。腕で顔を覆いながら、一歩一歩進む。

 村に近づくと、なぜか吹雪は止んだ。またしんしんとした雪が降る。黒い髪の毛に降り積もった雪を払う。

「なんだ…?何が起こってる…?」

  雪が常に降るこの世界では、外は基本無音だ。雪は音を遮断する。しかし、その向こうからは人々の笑い声や生活の音が聞こえてくる、暖かな静寂だ。

  しかし、この静けさは、まるでナニカの前兆だ。

 ザク、ザク、とノックスが雪を踏みしめる音と、息遣いだけが聞こえる。空は鈍色のまま、今にも押しつぶされそうだ。視界が狭まる。

  息が浅くなる。ここから先に進んではいけないような気がした。

  村に着く。

  第54ジェネレータが静かに見下ろす、ノックス達の故郷。人数は多くなく、資源も豊富とは言えない。しかし、人々が寄り添って生きている、そんな村だ。

  その故郷は、真紅で彩られていた。

  血で真っ赤に染まり、家々に飛び散る悲劇が、ここでの出来事を物語っていた。

「‥‥‥皆?」

  ふらふらと歩を進める。嘘だと信じたかった。

  足元に、斧を握ったノームが倒れていた。下半身は無かった。目を見開いたまま、目の前の何かを睨むようにして動かなくなっていた。

  ノックスはそっとノームの瞼を閉じさせた。

  酒場は、先ほどの喧騒が嘘のように静かだ。窓や扉は全て割れ、中に人が投げ込まれたように倒れている。

  道には武器を持った勇敢な戦士が多く倒れていた。武器を手放している者は無く、逃げ傷も無く、背を向けず立ち向かったのだろうことは容易にわかった。

  途中で武器庫があった。扉は開けられ、その中に武器はほとんどなく、あるのはノックス愛用の槍だけだ。槍を手に取る。

  ギギ、がガギ…。

  音が聞こえる。歯車が軋むような、嘲笑うような不愉快な音だ。音のする方へ向かう。

  しんしんと降る雪の中を進む。銃を握る手が痛い。手が真っ白になるまで固く握っていたようだ。この先に、根源が居る。そんな気がしてならなかった。

  進んで行くと、一体の巨人が見えた。大きさはおよそ8、9メートル程度。頭には3本のツノが有る。腕は異常に大きく、体躯の2倍ほどあり、その大きな手には鋭い爪が付いている。その逆で足は短い。メインカメラがある頭部分の顔には、笑った表情のような亀裂がある。

  その巨人の足元には、巨人狩り部隊一のお調子者、ルーザが座っていた。手と足を投げ出し、ダランとして木にもたれかかっている。

 ギギ、ギぎギ…。

  また嗤う。軋むような音だ。その大きな手が振り下ろされようとしていた。

「やめろ!」

  思わず叫ぶ。もうなにも考えていなかった。ただ無我夢中で巨人に向かう。銃で牽制する。メインカメラを狙うが、動きながらの射撃は命中率は限りなく低い。当然当たらない。巨人はやたらめったら腕を振り回し、ノックスを近づけさせない。

「クソ!」

  ノックスは意を決して飛び出した。槍を持ち、助走をつける。槍を投げた。メインカメラに向かう。

  巨人は読んでいたのか、頭を少しずらし、回避する。

  ノックスはその一瞬の隙を見逃さなかった。

  立ち止まり、狙いをつける。メインカメラに向かって引き金を引いた。メインカメラが破損する、ガラスが割れるような音が響く。

 ギガがガガガ!

  苦しむような音を上げ、巨人は腕を激しく振り回す。ノックスのことを捉えているように狙う。完全にはカメラを破壊できていない。

  巨人に接近していたノックスは腕を避けきれず、直撃する。

「ガハっ‥‥‥!」

  血を吐く。鈍い痛みが腹から全身に巡る。倒れた先は、ルーザがもたれている木のすぐそばだった。

「ノッ‥‥‥クス‥‥‥?」

  ルーザの血に濡れた口がかすかに動き、言葉を発する。

  ここで、俺が倒れたら、ルーザが狙われる。

  脳裏に電光のようにその恐怖が渦巻き、ノックスは立ち上がる。槍は、巨人の背の向こうに刺さっている。拳銃だけでは心もとない。

  もう一度メインカメラを狙って動きを鈍らせ、槍で近接戦に持ち込めれば勝機はある。

  ノックスは走った。痛みはもう感じなかった。ただ全速力で巨人を翻弄すべく走る。

  巨人は腕を振り回すのを止め、追ってくる。足が短いその巨人は、動きは遅い。ノックスが走る速度には追いつけない。

  ノックスはわざと遠回りをするようにして、巨人との距離を離す。槍を手に取った。

「よし、これで‥‥‥」

  しかし、その希望は絶たれた。

  巨人は立ち止まると、腕をノックスに向ける。すると、腕から黒い煙が吹き出し、手の部分が飛んできた。

「なっ‥‥‥!」

 予想していなかった攻撃に、ノックスは対応できない。避けようとしたが、背に攻撃が当たる。骨が折れる音がした。

 声が出ない。そのまま衝撃に身を任せ、雪の中に倒れる。ズシン、ズシンと巨人がゆっくり向かってくる音が聞こえる。ぼやける視界の陰に、赤く光るメインカメラが見えた。その腕が上がり、振り下ろされる。

 もう、死か‥‥‥。

 そんな諦念が、ノックスの頭を支配していた。静かに目を瞑り、訪れるはずの痛みを待つ。しかし、何秒経っても、それは来ない。

 目を開けると、その巨人はいなくなっていた。あるのは破壊の痕跡と、傷だらけのルーザとノックスのみ。

「ルーザ‥‥‥!」

 状況把握もほどほどに、一目散にルーザの元へ向かう。体のあらゆるところが痛んだが、そんなものは気にならなかった。

 ルーザは浅い呼吸をしている。目は開いているが、おそらくどこも見ていない。身体中の力を抜き、全体重を木に預けていた。腹には大きな穴が空き、そこから夥しい血があふれていた。

「ルーザ、大丈夫か‥‥‥!? しっかりしろ、目を開けるんだ!」

 ノックスが懸命に呼びかける、ルーザは焦点の合わない目でノックスを見つめる。

「ああ、ノックス‥‥‥。見てたぜ、お前の活躍‥‥‥。あの三ツ角の巨人を倒すなんて、流石だ‥‥‥」

「あ、ああ‥‥‥凄かったろ? また酒場で俺の武勇伝を語ってくれるんだろう?」

「当たり前じゃねぇか‥‥‥でも、俺も勇敢に戦ったんだ‥‥‥。たまには、俺の自慢もさせてくれ‥‥‥」

「お前が勇敢なんて皆知ってるよ。でも、俺もお前の武勇伝を聞きたいよ‥‥‥」

「ああ、そうさ。俺は勇敢な雪の戦士‥‥‥。ノエルもちゃんと逃したんだ‥‥‥。今、避難所にいるはずだ‥‥‥。皆、無事だといいけど‥‥‥」

「きっと無事だ、無事に決まってる!」

「ノームさんも皆も、死んじまった‥‥‥。残ったのはお前だけだ、ノックス‥‥‥」

「何言ってんだ、お前も一緒だろ?」

 ルーザの目が儚く細められる。

「ノックス‥‥‥」

 ルーザの手がノックスの腕を強く握る。

「俺は、ずっと‥‥‥! ずっと、お前が誇りだった‥‥‥! お前の友達で、よかったと、心から思う‥‥‥!」

「ルーザ‥‥‥?」

 ルーザの手がさらに、渾身の力でノックスの腕を握る。

「ノエルを‥‥‥ノエルを頼む。あれは強い子だ。だから、お前が、必要なんだ‥‥‥! こんなことはお前にしか頼めない‥‥‥!」

「る、ルーザ‥‥‥」

「今、誓ってくれ‥‥‥! ノエルを守ると! ノエルには、お前が、必要だ‥‥‥!」

 ノックスはルーザの手を強く握り返す。

「‥‥‥ああ、誓うよ。ノエルは必ず、俺が守るから」

「‥‥‥やっぱり、お前は、最高だ‥‥‥」

 ルーザは笑った。穏やかな笑みだ。そのまま動かなくなった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 ノックスは動けなかった。漸く、肉と意思を持った喪失感が体を支配していた。

 その先は、もう記憶にはない。ただ義務感だけが体を動かし、進んでいた。

 避難所には、誰もいなかった。

 そのまま膝をつき、何も考えられなかった。

 焼け付くような喉の痛みで、自分が泣き叫んでいたと気づいたのは、その随分後だった。

《感想》

ダークファンタジーとしては、王道テンプレに少しオリジナリティを加えたような作品でしたが、個人的にかなりヒットな作品でした。

最近はよくあたりを引きます(笑)

作者さんの執筆歴が気になり、前作にも目を通してみたのですが今作のほうが圧倒的によくできていました。

最初読み始めたとき、巨人という単語が出てきたので進撃の巨人に影響されたのかなーなんて思ったりもしていましたが、どうもそういうわけではないらしいです。

どちらかと言ったらFF寄りの作品かもしれませんね。

いやー、これは面白いですけど、かなり人気の出にくい作品ですねー(;’∀’)

今流行のジャンルというわけでもないですし、アピールできるほど突出したオリジナリティがあるわけでもない。かなりマーケティング的に厳し作品かと。

だからこそ皆さんにはぜひとも目を通していただきたい!

どうも作者さんは会話文があまり得意ではないらしく、1話には多少なりとも違和感を感じますが、1話切りだけはやめていただきたい。せめて3部までは読んでほしいです。

 

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