圧倒的過ぎるラブコメ『属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?』
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《作品タイトル》
《作品情報》
作者“ふりすくん”
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あらすじ
《タイトル斬り!!》コンテスト、特別賞だったので、続きやりまーす。特別賞で宣伝になりそうなので、このまま続編書きながらカクヨムコンに参加しまーす。星くれたら喜ぶよー。ふりすくんを喜ばせたい人は是非w
僕っ娘で、金持ちで、超可愛い幼馴染は好きですか?
俺は大嫌いだ。
あんなやつ、お嫁さんに出来るわけがない。
だって俺の幼馴染は、やばいのだから。
色々やばいというか、全部やばい。
存在がやばい。
だって俺の幼馴染は——。
ジャンル
キーワード
編集H やばい 幼馴染 僕っ娘 従順 ライトノベル 《タイトル斬り!!》コンテスト特別賞
掲載日
2018年7月31日
《第一話特別掲載》
1
彼女が欲しい——というのは健全な男子高校生ならばすごく当たり前に思うことだと俺は思う。思いまくっていると言っても過言ではないし、思い尽くしているとも言えるのだが、だけどまあなかなかどうして、彼女が欲しいと思えば思うほど彼女を作ることは本当に難しいのである。
俺——百地手王はとにかくモテない。すこぶるモテない。ハイパーモテない。どのくらいモテないかと言えば、もう本当に絶望的にモテない。
でも、自分で言うとナルシストみたいに聞こえてしまうかもしれないが、一応言っておくと、別に俺は顔面の造形に対して評判が悪いというわけではない。顔面の造形はそれなりに普通である。イケメンではないけれど、不細工でもない。これは俺の自己評価というわけではなく、俺が告白してフラれたときには必ず言われるのである。
外見は悪くないし、性格も悪くないとも思うんだけど——、と。
でも、彼氏にするのは天地がひっくり返っても無理。ごめんなさい——、と。
言い方こそ女の子にフラれた数だけあるので毎回違うけれど、意味としてはこんな感じに辛辣なフラれ台詞を言われるくらい、俺はモテない (天地がひっくり返っても無理は結構な頻度で言われる)。
高校入学から既に数ヶ月。夏休み目前である現在で俺の告白失敗回数は年齢を軽く超えた。
なんならダブルスコアすら超えた。
クラスひとつ分を超える女の子にフラれているのである (四十四連敗)。
我ながらなかなかのハイスコアだぜ。
このままいくと俺の高校生活は終わりだ。
いや、高校生活だけならいい。
別に高校生活が人生の全てではないのだから、高校生活が一年の夏休み目前で幕を閉じたって構わない。高校生活がたとえ絶望的だとしても俺にはその後の人生だってあるのだから、たかが三年間くらい、絶望の中だって笑える自信はある。
三年間くらいなら耐えられる。
高校卒業後にまだ見ぬ未来に希望を持って、三年くらいなら耐えられる。
でも、俺には三年しかない。
こんな風に言ってしまうと、まるで俺の余命が三年しかないみたいに聞こえてしまうかもしれないけれど、俺は余命を宣告されているわけではない。
余命宣告はない——嫁入り宣告はされているが。
俺がフラれる理由。
それは俺につきまとう『やつ』の存在が全てである。『やつ』は俺がモテない最大の元凶であり、イケメンでもない俺が抱えるハンデでしかない。
俺には許嫁がいる——わけではない。
俺にそんなラブコメ設定が適用されるわけがない。
果たして——『やつ』というのは、俺の幼馴染である。
幼馴染で金持ちで、勉強も出来て、おまけに超可愛い外見をした、俺の幼馴染が『やつ』である。
『やつ』の名は、紺豪魂。
それが俺の幼馴染の名で、俺がフラれる最大の理由であり、本当に最悪で、醜悪な——俺の幼馴染。
醜悪という言葉は、人に対して使用する言葉にしてはあまりにも酷過ぎるとは、言っている俺でも思うけれど、紺豪を言い表す言葉でこれ以上ぴったりな言葉を俺は知らない。
『やつ』はやばい。
色々やばい。
色々というか、全部やばい。
ではどのくらい紺豪魂がやばいのかをこれから説明しようと思う。
きっと。
この説明を聞けば誰だって思うから。
あ。こいつやばい——って。
2
幼馴染とは言ったけれど、俺と紺豪はずっと同じ学校に通っていたわけではない。小学校の卒業式の日から数日後、紺豪は親の都合で転校することになったのである。
当時の俺は紺豪と仲良しだった。
引っ越しの日までは、仲良しこよしだった。
紺豪の家は、ちょっと変わっていて、授業参観や、運動会といった家族参加の学校行事には参加しない家庭だった。でも別に紺豪が両親に煙たがられていたわけではない。学校行事に不参加なだけで、めっちゃ愛されていると思う。
ぶっちゃけ、クソ過保護だ。
迷惑なくらいにクソ過保護だ。
小学生の頃はよく紺豪の家に泊まりに行ったりもしたけれど、高校生の俺はそんなことはできない (当然だ)。
もし願いが叶うのならば、俺は小学生からやり直したい。紺豪と距離を置きたい。仲良しこよしだったあの頃の歴史の全てをぶち壊したい。
まあ『やり直し』なんてできないけれどさ。
引っ越しの日。
紺豪とのお別れの日。
当時の俺は紺豪と仲良しこよしだったので、紺豪が引っ越すという事実を聞いたときは、それはもう意味わかんないくらい号泣した。友達として好きだった。友達だったのだから当然だろう。
友達だった——そして、好きだった。
だった——、過去形である。
高校生になった俺は紺豪のことが大嫌いだし、出来ることなら始末したいとも考えているが、小学校を卒業したばかりの頃——中学に上がる直前の春休みの俺は——、紺豪のことが友達として大好きだったので超号泣したのだが、今思えばこの俺の涙は哀れである。
自分で自分に同情しちゃうくらい。
マジ俺、可哀想。
しかし幼い俺は自分に同情することもなく、紺豪とのお別れにひたすら嘘みたいに号泣。
「魂…………、俺、魂のこと絶対……絶対絶対絶対、忘れないから——っ!」
泣きながら俺は紺豪に言った。
ちなみにこの当時の俺は紺豪のことを名前で呼んでいた。今は苗字ですら呼びたくない名前になってしまったが (口にするだけで虫唾が走るぜ)。
「あのね……、ておう……。ぼくね…………、ずっと、ずっとずっと、ておうに言えなかったことがあるの」
ちなみついでにもうひとつちなむと、『ておう』というのは俺のニックネームである。このニックネームは高校生になった現在でも、ほとんどの友達が俺をそう呼ぶ (手王という名前を初見の人はみんな手王とそのまま読みやがるし、それが定着してしまうからである)。
他にもあとふたつニックネームがあるけれど、今はそれは置いておくとして——、紺豪魂の言えなかったことを先に述べたいと思う。
俺は泣きべそをかきながら、訊く。
「なんだよ……、言えよ」
失言だった。
今思えば、失言だったと言わざるを得ない。
言わせるべきじゃなかったし、訊くべきじゃなかったんだ。
「うん……、言うね」
ぼくね——、と。
紺豪は言った。
「ぼくね、ずっと。ずっとずっとずっと。今までずっとね……、ておうのことが好きだったんだ」
と。
紺豪は俺にそう言った。
顔を赤らめて。羞恥を堪えて、赤面しながら、紺豪は言ったのだった。
「なんだよ、そんなの俺だって……、俺だってずっと、魂のこと大好きだよ」
既に説明は不要だと思うが、俺の言った『好き』は友達としての『好き』である。ライクでしかない。
「ほんとーに!?!?」
大袈裟に驚いた紺豪は、満面の笑みを浮かべ、俺を見つめて、
「ぼくたち——両思いだったんだ」
嬉しい——、と、呟く紺豪。
「いや、両思いって、魂……」
両思いという言葉は普通に恥ずかしいというのもあったけれど、まあ互いに友情を感じているというのは両思いと言っても過言ではないだろう——と、俺は解釈した。
間違った解釈をした。
「俺も魂のこと好きだよ」
「じゃあさ、ておう。ぼくと約束して欲しい」
「約束ってなんだよ?」
「あのね。ぼくたちが大人になって、結婚できるくらいに大人になったら」
ぼくを——、と。
紺豪は言った。
頰を赤らめながら、照れながら、もじもじしながら、紺豪は言う。
「ぼくを、お嫁さんにしてほしい」
「……………………」
ここまで言われたら俺でもわかった。わかってしまった。わかりたくなかった紺豪の言う『好き』の意味と俺の思う『好き』の意味が全然違うということを、俺はわかってしまった。
「無理だ」
自分でもさっきまでの号泣がなかったかのようなレベルで俺は紺豪からの告白を断った。
考える時間は必要ない。
考える時間の無駄だから。
当時の俺のなかの紺豪魂という人間は、仲の良い友達であり、親友であり、なによりかけがえのない存在だった。
お嫁さんにすることはできない。
俺の心変わりは未来永劫ない。皆無も皆無。
そりゃあ、そうだろう。
紺豪魂という人間は、俺にとって友達で親友で、そしてなにより、
「魂、だってお前、男じゃん」
だからである。
紺豪魂。性別。男。
ガタイが良くて、小学生なのに腹筋は割れてるし、顔はなんというか、ゴエモンインパクトみたいな顔で、今にも鼻から小判を出すのではないだろうかと危惧するくらい鼻の穴が広くて、そしてやっぱり男の子だった。ただのメンズだ。
一人称が僕って言うのは、僕っ娘ということではなく、ただ普通に男子だからなのである。
生まれて初めてされた告白は、親友だと思っていた幼馴染の男の子からされた俺なのだった。
時は進み、俺は中学を卒業、そして高校へと進学した。
桜の咲く季節。
桜満開は俺にとって地獄の始まりを告げる狂い咲きでしかない。
3
ちなみに、紺豪に告白された小学生と中学生の狭間の俺が紺豪に言った『無理だ』という、ばっさりと断るのにこれ以上ないくらいの台詞を聞いても紺豪は引き下がることはなかった。
むしろ押せ押せだった。
超グイグイだった。
気持ち悪いくらいにグイグイだった。
それを断る為に、俺は適当なことを思いつきのままに言ったのだけれど、マジでその台詞に俺は後悔している。現在進行形で後悔し続けている。
こんなことになるなんて、誰が予想できるのか、という話ではあるけれど。
紺豪のやばさ。
紺豪一家という家庭のやばさ。
紺豪のクソ過保護の両親のやばさ。
それを思い知ったのは高校の入学式の朝だった。
あまり頭の出来は良くない俺ではあるけれど、高校に進学することは出来た。入学式に向かう前に、自分のクラスに向かい、カバンを黒板に書いてある指定された座席に置いて、席に座る。
あたりを見渡す。
知り合いはいない。中学の時に遊んでいた友達はみんな俺より数ランク上の高校に進学して、俺は無難な高校に進学したから——ということもあるけれど、なにより地元からちょっと距離があるというのも理由のひとつだろう。
俺がこの学校に進学を希望したのは、ちょっと遠いくらいの方が新しい出会いやらがあるのではないだろうか——と、そんな思いを抱いていたことが理由だったのだけど、さすがに知り合いゼロというのは心細いものがある。
寂しいぜ。
話し相手がいないぜ。
と。
俺は入学早々に机に顔を伏せることにしようとしたのだが、しかしそれは出来なかった。
ひとりの美少女が俺に話しかけて来たからだ。
このクラス、全体的に女子のレベルが高いな、と教室に入った時点で感じていたけれど、果たして美少女はその高いレベルの中でもレベルが高い。
身長は俺より低いから、一六〇センチあるかないかくらいのお人形さんみたいな『つくりもの』のような大きなパッチリ目で、姫カットの美少女が俺に話しかけて来た。
否。
抱きついて来たのだった。
話しかけるというか、俺の名前を大声で叫び、果たして美少女は俺に全力のハグ。辺りの視線なんて全然気にしない美少女だった。
突然の美少女からのハグに俺はびっくりしたけれど、舞い上がっちゃう哀れなピエロが俺である。
高校生活、いいスタートじゃねえか!
とも思ったけれど、俺はこの果たして美少女に見覚えがない。全くない。初見の美少女でしかないのだけれど、しかし俺は果たして美少女が言った言葉でマジで鳥肌がたった。
ぶるぶるだった。
春だというのに、冬到来だと錯覚するほどにぶるぶる震えることになった——果たして美少女の言葉は、
「僕だよ、紺豪魂だよ、ておう!」
という戦慄を禁じ得ない言葉だったのだから。
やばくね?
だってさ。
ゴエモンインパクト (みたいな男子)が美少女にフルモデルチェンジしてるんだぜ?
やばくね?
かつて親友だと思っていた幼馴染のゴエモンインパクト (みたいな男子)が、美少女になってるんだぜ?
おっぱいもそれなりにあるんだぜ?
マジでやばくね?
「……………………」
ここから俺の地獄は幕を開けたのだった。
4
入学式という新入生初の学校行事が進行しているというのに俺は保健室にいる。
恐怖過ぎてマジで倒れた。
俺のそんな反応に、クラスで俺がハグされるのを目撃していた生徒は俺がウブ過ぎるというプラスなのかマイナスなのかちょっと判断しかねる印象を与えたらしいのだが、そんなのどうでもいい。
俺が受けた恐怖という名のケタ違いの衝撃に比べたら超どうでもいい。どうでもいい女子の『最近枝毛多めなんだけどー』という髪のダメージ発表くらいどうでもいい。
俺の心のダメージがでか過ぎる。
解せぬ。
あれが紺豪魂だと?
あの美少女が?
オエー。
まず紺豪魂を美少女だと思ってしまった自分が許せない。誰か俺を裁け! 裁いてくれ!
やば過ぎるだろ。
俺が『お前男じゃん』って言ったら、外見をフルモデルチェンジしてくる幼馴染って、どう考えてもやば過ぎて言葉が出ない。朝飯が出そうだ……。
案外夢じゃねえの、っていう夢オチを願ってしまうけれど、夢オチだったとしてもそんな夢を寝ながら見てしまった俺は病院に行くべきだろう (そもそも夢じゃないが……)……。
と。
俺が保健室のベッドで思考がどんどんカオスになっていったところで俺は隣に物体を発見した。
人間だった。
紺豪魂だった。
幼馴染だった。
全裸だった。
普通に寝ていた。
状況もカオスだった。
「……………………」
おい。
色々おい。
突っ込みどころしかねえじゃねえか。
男の子の象徴がついてねえ…………。
女の子の下半身になってる…………。
やばくね?
性転換してんだぜ?
金持ちというステータスを全力で使って、金を使ってモシャス使ったんだぜ?
クソやばくね?
恐怖で身体が動かないんだけど。
まるで全身を何かで拘束されているかのように身体が動かない。
「つーかマジで拘束されてんじゃん!」
マジだった。なぜか保健室のベッドが拘束仕様になっている。こんな保健室嫌だ!
なんでベッドに手枷足枷標準装備されてんだ畜生!
ビクともしねえ、微動だにしねえ。
超こえーよ。
紺豪魂が全裸で横に寝てるという事実にも恐怖を抱かざるを得ないけれど、つーかなんで俺まで全裸なんだ……。
「何されたんだよ……、俺………………」
「これからするんだよ」
と。
俺の呟きに対して返答があった。
独り言のつもりで言った言葉にレスポンスがあったことは普通なら恥ずかしく思う限りだけど、俺の格好の方が恥ずかしいので羞恥の基準がしっちゃかめっちゃかになっている。
ひとって怖くて仕方ないとき、何にも抵抗することが出来ないだなー、と思った。拘束されてるからリアルに何にも出来ないんだが。
言葉は出ないけれど、涙が出るぜ。
ボロ泣きだ俺。
既に言葉を失っている俺だけれど、このままだと俺の貞操が失われる。
紺豪魂は仰向けで拘束されている俺の上に乗った。本物の美少女に全裸でマウントポジションを取られたなら、思春期の俺は興奮するのかもしれないけれど、コイツが紺豪魂で、かつてのゴエモンインパクト (みたいな)紺豪魂を知っている俺は、もう本当に震えることしかできなかった。
「あんまり動かないでよ、ておう……」
気持ちよくなっちゃう——と。紺豪魂は言った。
気持ちわりー、という真っ直ぐな感想しか俺は思えなかった。
「それとも、それがお望みなのかな? ておう。したいの?」
「望んでねえ!」
ようやく俺は声を上げる。目一杯。
したいとか言うなよマジで。死体にすんぞお前。
俺の格好の方が死体っぽいが…………。
「ふふ、冗談だよ、ておう」
「……………………」
何が冗談で何が冗談じゃないのか全然わからない。コイツとの再会そのものが冗談であって欲しい。
「こんな硬いベットの上じゃあ、ておうの初めては貰えない」
「献上するって言ってねえよ」
「それにしてもておう。変わってないね。昔のままで僕は嬉しいよ」
「お前は変わり過ぎてて俺は悲しいよ」
幼馴染のこんな変わり果てた姿、見たくなかったよ。まず服を着てくれ。
そして俺の拘束を解けよ。
「服はまだ着ない。拘束も、まだ解かない」
微笑を浮かべる紺豪魂。
笑顔は美少女の笑顔だけど、三年ほど前のコイツ——鼻から小判出しそうだった姿を知っている俺は、笑顔が怖くて仕方がない。
紺豪魂は表情を笑顔から、快楽へとフェイスチェンジ。
そしてスマホをカバンから取り出して——撮り出した。
カシャ、と。
カメラの音に続けて、紺豪魂は言う。
「よし」
「よしじゃねえ!」
「どうしたの、ておう? おっぱいなら幾らでも揉んでもいいんだよ?」
「揉むかよ!」
「久しぶりに会ったからキスしていい?」
「どんな理屈だよ! 絶対嫌だ!」
「でも、この状況でておうに僕の唇を止めることはできないよね? 僕の口を塞ぐ方法は、ておうの唇で塞ぐしかないよね?」
紺豪魂は、自分の唇を指でなぞりながらそう言った。
「俺に何かしたら、ブチのめすぞ」
「その格好で? 今のておうには僕をブチのめすのは無理だと思うなあ。出来るのはブチ込むことくらいだよ?」
怖いことを言ってるぜ。
怖いことしか言ってないが。
「それに、僕に乱暴したら、大変だよ?」
「……………………」
「僕の家のこと、覚えているでしょ?」
「……………………」
「僕の家族を知ってるよね?」
「……………………」
「紺豪一家はあいも変わらず、僕に粗相を許さないよ?」
僕のておうに対する愛は変わらないけどね——えへへ、と。紺豪魂は笑った。
「脅迫かよ?」
「人聞きの悪い言い方しないでよ、ておう。忠告だよ」
「お前の『家族』は知っている。紺豪一家のことは知っている。知ってる俺にはその忠告が脅迫にしか聞こえねえよ」
「あはは。まあ忘れられるほど、僕の家族は印象薄くないからね」
濃厚だからね僕の家族は——、と。
紺豪は言う。
「濃厚で、僕を大切にしてくれるからね」
コイツの家族というのは、世間で言う、一般家庭的な意味ではない。『紺豪一家』は端的に言うと、ファミリーではなく、グループ。
組織である。
だからつまり、より具体的に言うと、
「お前んち、ヤクザだもんな」
である。
ね?
やばくね?
5
拘束が解かれた。服は返してくれなかったが。
紺豪魂は素肌にブラウスだけを着用している。
突っ込みどころしかない幼馴染との久しぶりの再会で時間を確認出来ていなかったけれど、時刻は既に放課後の時間だった。
保健室に先生がいないことにも得心がいく。
だって今、夜だもん。夜の十時過ぎてたんだもん。俺が気絶していた時間は結構な長時間だったらしい。
「帰りてー」
「僕の胸の中に?」
「なんでそうなるんだ! つーかなんでそうなったんだお前!」
「だって、ておうが言ったから。僕を男だからお嫁さんに出来ないって言ったから。だから僕はマジックポイントではなく、マネーパワーを使って、女の子になったんだよ。金のチカラは性別くらい容易く変えられるからね」
「最低の言い方だな」
「これで僕はておうのお嫁さんになることができる。安い買い物だったよ」
「骨格すら弄ってる手術が安いわけねえだろ」
筋肉質でガチムチが華奢になるって、どんな手術なんだよ。
「僕にとって金は数字でしかないよ。カンストしたMPでしかない」
「マネーパワーをMPと略すな」
「さあておう。僕をお嫁さんにしてくれるよね?」
「するわけねえだろ!」
「女の子になったんだよ僕? これで条件はオールクリアじゃん。何が不満なの? 言ってくれれば僕、なんでもするから言ってよ」
「死んでくれ」
「それは一緒の墓に入ろうって意味だね? やだ、嬉しい」
「都合よく解釈しすぎだ!」
「お金なら幾らでもあげるから、僕をお嫁さんにもらって」
「汚れた金をもらっても俺はお前をお嫁さんにしない」
「金は汚れているものだと僕は思うけどね」
「俺はお前をお嫁さんにもらわない」
「ておうの家族がどうなっても知らないよ?」
こわ…………。
脅しこわ!
「お前、俺の家族を人質にするつもりか?」
「僕にそのつもりはないよ。でも僕の家族はどうだろうね。僕の家族は、血気盛んだよ」
「……………………」
家族が人質に取られた。
ヤクザに。
「お前、そんなことを言ってどうすれば俺がお前をお嫁さんにしたいと思えると思ってんだよ」
「だって僕は、この世で唯一、ておうが女性だと認識することが出来る存在だからね」
「んなわけねーだろ。女の子はお前以外にもたくさんいる」
そもそもお前、男の子として生まれてる時点でお前をお嫁さんにしたいとは思えないって話だ。
別に外見を反転させたひとを否定するわけではないけれど、コイツだけは否定する。過去を知り過ぎている。
「ちなみに僕、国籍も女の子になってるからね」
どうでもいい情報を補足した紺豪魂は、続けて言う。
あの日——、と。
「僕がておうとお別れした日。ておうは言ったよね。ておうにとって、女性とはどんなひとを指すのかを、僕に教えてくれたよね」
「まさかお前…………」
紺豪魂がやばい理由。
それでは明かそう。最大のやばさを、開示しよう。
その前に、俺が紺豪魂を拒絶する為に言った言葉を、紺豪魂が開示した。
「あの日ておうは僕に言った。『俺にとって女性というのは、ケモ耳を生やした奴だけなんだ、だからお前をお嫁さんにはできない』」
うん。
グイグイ来るコイツをなんとか拒絶する為だけに俺は適当にそう言った。
そして、コイツはそれを形にして来やがった。
「だから僕、ケモ耳を生やしたんだ」
そう言って紺豪魂は被っていたカツラを外して (カツラはこの時までわからなかった)、ケモ耳——狐モチーフ (?)——を俺に見せつけて、言う。
「僕をお嫁さんにしてくれますか?」
ほら。
やばいでしょ、コイツ?
カツラを外す前に人として踏み外しているコイツの名前は紺豪魂。
かつて俺の大事な親友で、現在では最悪で醜悪の俺のストーカーの名前である。
多分、世界一やばいやつの名前でもあるのかもしれない。
「こんこん」
紺豪魂は狐っぽく鳴いた。
俺は静かに泣いた。
《感想》
またも久々の記事投稿となってしまい大変申し訳ないです。
もしかしたらもう二度と継続的な更新はできないかもしれません(‘◇’)ゞ
その代わりとしては何ですが、YouTubeチャンネルなんかも始めてみましたので良ければチャンネル登録お願いします(笑)
まぁそんなどうでもいい話は置いておいてw
今回紹介させていただいている【属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?】はぶっちゃけ人を選ぶ小説かと思います。
個人的にどれだけ美少女なキャラクターでも、もともとの姿が男だとやっぱりきついところがありますね(;’∀’)
この話を聞いて
「は⁉ どういうこった?」
なんて思ったそこのあなた。
実はこの物語に登場する主要ヒロインの一人【紺豪魂(こんごうこん)】はカクカクシカジカの過去を持っておりまして、もとゴツゴツ男子キャラから美少女キャラに転生ならぬ転性を遂げているのです。
(※ラブコメ作品ですから魔法でどうのこうのということでじゃないですよ(笑))
男子→女子という独特なキャラ設定に抵抗があるという方は、若干読みずらいところがあるかもしれませんね。冒頭の『ぶっちゃけ人を選ぶ小説かと思います。』とは実のことを言うとそういう意味なんです。とはいえ、これはあくまで個人的な話!
作品的な話をさせていただきたますと、とてつもなくよくできた小説だと思いました!
個性あふれるキャラクターにオリジナリティ豊富なストーリー、おまけに文章のテンポまで素晴らしく、とても読みやすい一作に仕上がっております。
作中ところどころに挟まれる言葉遊びがだんだんと癖になってきますねw
数か月前まで
「ただ西尾維新先生にあこがれただけの作者さんかなー」
なんて思っていましたが、まさかこんな進化の仕方をしているとは(謎の上から目線)
ふりすくんさんの成長速度マジパナイです。